ミル
我が家にはミルという真っ白なうさぎがいる。
本名はミルク。
けど本名で呼ばれたことは我が家に来た数日間だけだ。
いつのまにかミルになっていた。
なかなかアタマの良い子で家族の序列をつけていた。
妻、長女、長男、そして私は敵。
妻は毎日なでているのでよく懐き、ミル!と呼ぶと寄ってくる。よくふたりで顔をつけて横になっていた。
長女は小学低学年のころ時折、ミルの攻撃を受け噛まれて血を流した。
ミルの噛む力は容赦なく、娘は泣いた。
やがて娘は妻に同様、ミルに優しく接するようになり、いまではお互い心を許している。
長男は最下位で幼稚園のころ、毎朝ミルの奇襲にあい噛まれた。それが日課。
うさぎがこんなに頭がいいのかと感心した。息子はたまったものじゃない、見かねた妻がミルを叱ってたくらいだ。
私はと言えば、ちょっかいを出すから基本、ちかづくと逃げた。
だが酔っ払って無防備になると決まって噛まれて出血した。
いちばんヒドかったのは酔っ払って横になったとき鼻を噛みにきたことだ。
直前にちょっかいを出した私が悪いが出血レベルでなく流血だった。
翌日鼻に絆創膏を貼った私の顔を見て同僚の笑いの種となった。
そんな日々はもう来ない。
今、ミルは酸素吸入器がついたケージにいる。約3ヶ月。
体は全盛期の半分だ。
私は去年から単身赴任になっているから会うのは週末だけだ。
それでも先週まではまだ多分大丈夫とタカをくくった。
今日、帰ってきて夜中、ゲージの中のミルと向き合うともう会えないかもしれないと感じた。
私の母がペットショップから無償で譲りうけたミル。子どもたちがウチで一緒に暮らしたいと私にコントのように土下座して我が家に来たミル。
私は傲慢にも自らの命を軽視するタイプだ。
今、なんとか呼吸することに懸命なミルから、敵のミルの姿から、、、意志だろうが本能だろうが生きようとする姿からミルのことを生きてるうちに書き留めないと後悔するから。
まだありがとうは言わないから。